Lean In Tokyoの横田です。
次世代リーダーとしての期待が働く女性に集まっている一方、企業の人事部門や女性社員自身からは「管理職になるための女性人材が十分にいない」、「リーダーになることへの躊躇がある」といった声が多く聞かれます。
今日は教育訓練機関や各企業が実施する女性特型研修、その中でも「女性リーダー育成プログラム(Woman’s Leadership Program)」について書いてみたいと思います。
女性特化型研修が実施される理由として、企業の取組み目的を見てみると、女性活躍推進のための施策という位置づけが一般的なようです。
ここであえて女性特化型研修のメリットとデメリットを考察すると、
【メリット】
・同じ課題や悩みを共有する社員同士が特定テーマ(働き方・マインドセット・キャリア開発等)についてディスカッションしたり、お互いにピアレビューしたりすることにより、問題解決のアイデアが浮かんだり、共感が生まれて仲間意識が強まったり、企業へのエンゲージメントが高くなったりする
【デメリット】
・ファシリテーションやコンテンツ次第では、集まった社員の不満や愚痴をぶつける場になりやすい
・同じ女性同士でも立場(社内でのポジション・配偶者の有無・子どもの有無等)が異なると感情的になりやすく、自分に関係のない課題には関心を持たない
といったことが考えられます。
女性だけを対象として研修を実施することについて、男性からは「性差を過度に配慮した逆差別ではないか」、既に管理職に昇格した世代の女性からは「過去にそのような研修はなかったのだから機会不平等ではないか」といった批判もあるようです。
しかしながら、残念ながら現時点では、男性社員と比較して女性社員のキャリア形成が遅れていること、また、女性社員自身のキャリア意識も不足していることから、リーダーを目指す男女の意欲・取り巻く環境・オポチュニティの面で明らかな格差があると言えます。
例えば、コロンビア大学ビジネススクールで行われた実験で、成功と好感度は男性の場合は比例するのに対し、女性は反比例するということを裏付ける研究結果が得られました。
シェリル・サンドバーグの著書『リーン・イン』でも挙げられているいくつかの例も紹介します。
1.What Would You Do If You Are Not Afraid?
(怖がらなければ、あなたは何をする?)
リーダーになる意欲に男女で大きな差が多くの研究で明らかになっています。例えば、マッキンゼーが社員4000人以上を対象に2012年に行った調査では、男性回答者の36%がCEOになりたい、と答えたのに対して、女性はたった18%でした。これらは様々な原因があるものの、ステレオタイプが無意識に働いていることが原因の一つなのです。
だからこそ、女性には「リーダーをめざす男女の意欲に差がある」ことを知った上で、怖がらず、いつまでも高みを目指して欲しいのです。さて、あなたは何も怖がらなければ、何をやりますか?
2.Sit At The Table
(同じテーブルに着く)
女性は日頃から無意識のうちに、自分を過小評価する癖がついていることが明らかになっています。研究でも、男性は仕事の成果を実際より高く見積もる傾向があるのに対し、女性は低く見積もる傾向があることがわかりました。また、男性の成功者に成功の理由は?と聞くと、「自分の実力」と答えるのに対して、女性は「幸運、周りの力のおかげ」と答えることを見ても顕著な差が現れています。これが原因で、女性は大きな責任のある仕事などを任せると「自分には無理だ」と思ってしまう傾向が男性より強く、自ら大きなチャンスを断ってしまうことが多くあるのです。
だからこそ、女性は、大きなチャンスが与えられた時、「無理」と考えるのではなく、自分の可能性を広げていくためにもチャレンジしていくことが必要です。そして、自分の意見が無視されたり、相手にされなかったりする場合はあるものの、手を挙げ続け、同じテーブルに着いて話し続けなければなりません。
3.It’s a Jungly Gym, Not a Ladder
(ハシゴではなく、ジャングルジム)
世間では出世はハシゴにと例えられることが多いものの、実際はハシゴではなく、ジャングルジムのようなもので、様々なルートで高みを目指すことができます。そのためにシェリルが薦めているのは①遠い夢と②18ヶ月プランを考え、その2つが同じ方向を目指すようなプランにすることです。
そして、女性がジャングルジムで高みを目指す時に必要なことは、リスクを取ること・チャレンジすること・しかるべき昇進を要求することです。前述の通り、女性は自己の能力を過小評価する傾向にあります。ヒューレット・パッカード社の調査でも、男性はポジションに60%程度満たしていれば応募するのに対し、女性は100%満たしていると確信しない限り、応募しないという調査もあります。女性は「自分はまだふさわしくない」と考えるのをやめ、「私はこれをやってみたい。きっと仕事をしながら能力はついてくる」と考えて挑戦した方がいいのです。
そもそも、女性活躍推進に取り組む企業が多い中で、依然として女性管理職が少ないのはなぜでしょうか。
よく挙げられる理由として、現在の日本では、そもそも職場に管理職候補の女性が少ないということがあります。
今までの日本は、社会的・慣習的に、家事や育児などの家庭責任は女性に偏ってきました。職場のカルチャー的にも、男性が育児休業を取得することは依然として難しく、女性の育児休業取得率(2012年度)が83.6%であるのに対して、男性は1.89%という低い数字となっています。これは先進諸国の中でも際立って低く、パートナーのサポートを得られない女性の多くは結婚や出産を理由に退職しています。あるいは、フルタイムではなくパートタイムで勤務したり、家計の補助的な働き方をせざるを得ない状況が続いています。
そのことが、勤続年数や必要な知識・経験が不足している女性を多く生み出し、企業が管理職に登用するための条件を満たしていない女性が多く存在するという事態を招いています。
先ほどご紹介したシェリル・サンドバーグの著書『リーン・イン』でも挙げられている通り、女性管理職が少ないもう一つの理由について、女性リーダー候補の多くがリーダーになることへの意欲や自信を持つことに壁を感じていることも大きいと思います。
法政大学の武石恵美子教授によると、企業側もこれまでに注力してきた家庭と仕事の「両立支援」から、キャリアアップなどを促す「活躍支援」が主体になってきていると指摘しています。
2010年以前は、女性が産休・育休制度などを活用し復職を促すことに主眼が置かれていましたが、近年では復職は前提であり、その先のキャリアアップを促すことを支援するようになってきています。
その中でも、「女性リーダー育成プログラム(Woman’s Leadership Program)」を実施する企業も増えており、女性リーダー候補のためのリーダーシップ獲得プログラムや、女性の中長期的なキャリアを支援する研修など、リーダーとしてのスキルとマインドを学ぶ機会を積極的に提供し始めています。
出典:グロービス 女性リーダー育成プログラム(WLP)
https://gce.globis.co.jp/service/training/ges/wlp.html
両立支援から活躍支援へとシフトした女性特化型研修には、今後より一層、女性育成の戦略的意義が求められると考えられます。
女性特化型研修の内容が多様化するのに加え、女性の部下を持つ上司向けの研修や、働く妻を持つ夫のための研修など、女性活躍支援に関わるステークホルダー向けの研修も人気があるようです。
女性に限らず、時短勤務や在宅勤務をする部下をマネジメントする経験や、多様な価値観を持つ部下をマネジメントする経験は上司の成長にも繋がるでしょう。
また、夫婦共働きをすることのメリットとして、世帯年収が上がるという金銭的なメリットが挙げられることが多いですが、夫が家事や育児を担当するようになると、妻のストレスが減り、夫婦の満足度が高まり、離婚率が半分に下がるという調査結果も出ているのです。
男性も女性も、互いに歩み寄り高め合える関係を構築することが、女性リーダー育成の成功の鍵になると思います。