Lean In Tokyoの横田です。
2016年秋に人気を集めた2つのドラマ、新垣結衣さん主演の「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系、以下「逃げ恥」)と、石原さとみさん主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系、以下「校閲ガール」)を毎週楽しみにご覧になっていた方も多いかと思います。
いずれの作品も人気女優を起用し、平均視聴率が高くドラマとして成功したと評判を呼んでいました。
(「校閲ガール」は、スペシャルドラマ「地味にスゴイ!DX 校閲ガール・河野悦子」として今秋復活するそうです!)
ビジネスシーンにおける女性像という観点で見ると、「逃げ恥」のみくりと「校閲ガール」の悦子という2人の女性ヒロインの仕事に対する姿勢が非常に対照的で示唆に富んでいるのです。
今日はこの2人の女性の仕事に対する向き合い方を考察するとともに、女性のキャリアという文脈でも興味深い共通点を見つけたので書きたいと思います。
ケース①「逃げ恥」のみくりの場合
ユーティリティプレーヤー:1人でいくつものポジションを器用にこなす選手
みくりは大学院卒業後、就職活動で失敗して派遣社員になります。その後いわゆる「派遣切り」に遭い、悩みながらも「夫=雇用主、妻=従業員」の雇用関係を結び、家政婦として働くことを決めました。
みくりは料理・掃除・洗濯などの家事代行を器用にこなすユーティリティプレーヤーです。幅広い仕事を忠実にマルチに遂行するタイプです。
最初は家事を仕事にすることや、大学院で学んだことを活かせないことに戸惑いもありましたが、やるからには頑張ると前向きな姿勢で取り組みます。
みくりの魅力は、常に自然体であることと、大学院で学んだ心理学を活かした人への気遣いができることだと思います。
職を失うという過酷な経験をしながらも、家族や友人と話したり、自然体で現実を受け入れることで、雇用主である夫とも良い関係を築くことができ、日々の仕事を前向きに楽しんでいる様子が伝わってきます。
ケース②「校閲ガール」の悦子の場合
スタンドプレーヤー:観衆が喜ぶ派手な個人プレイを得意とする選手
悦子は憧れの出版社へ入社し、希望していた華やかな編集部ではなく、地味な印象の校閲部へ配属となります。
新人であるにもかかわらず、校閲者の仕事を超えて活躍するスタンドプレーヤーです。
本の英文タイトルを間違えるなどのケアレスミスがある一方で、大物作家たちの心をつかむなど周りに一目置かれる仕事を重ねていきます。
編集部への異動希望を公言したり、相手が誰であろうと自分の信念に反することには真正面から意見するなど、猪突猛進な仕事ぶりが目立つのですが、悦子の魅力は、人に合わせて態度を変えず、いつも一生懸命で喜怒哀楽がはっきりしたところだと思います。
悦子に影響を受けた作家や同僚たちも彼女を助けずにはいられません。悦子自身も校閲の仕事にやりがいを感じるようになります。
それぞれ置かれた状況も仕事に対するアプローチも異なる2人ですが、女性が職場で活躍するために実践できるヒントをご紹介します。
2人の姿から学べること①職場で好かれるための秘訣を心得る
家事スキルが完璧で器用なユーティリティプレイヤーである「逃げ恥」のみくりは、雇用主である夫に媚びを売るわけでもなく、適度な距離感を保ちながらお互いにとって快適な共同生活を模索していきます。雇用主である夫も、折に触れて細かな気遣いのできるみくりに惚れ惚れするシーンが印象的です。
そして周囲が認めざるを得ないスタープレイヤーである「校閲ガール」の悦子に関しても、著名な大作家や他部署の方針に対して臆せず自分の見解を主張するなど、裏表がなく体当たりのコミュニケーションが周囲の気持ちまでポジティブにしていきます。配属当初は反感を買ったり非難されたりするのですが、真っ直ぐで一生懸命な悦子は気づけば相手の懐に入って絶大な信頼とサポートを勝ち取っています。
2人の姿から学べること②置かれた状況を悲観せず、自分の仕事にオーナーシップを持ち前向きに取り組む
「逃げ恥」のみくりは、大学院卒にも関わらず就職活動で失敗してしまい、希望通りの就職が叶わずにいました。そんな中でも「やるからには採用目指して頑張りましょう」と明るく語るなど、悲観的にならず家事代行サービスに自分なりのバリューを見出していきます。
また、「校閲ガール」の悦子も、希望とは全く異なる配属先で戸惑いも露わにしていたのですが、校閲の仕事を覚え多くの人と関わっていく中で、この仕事にしかできない価値や魅力を感じ、最後には編集部への異動チャンスよりも目の前の校閲部で取り組んでいた仕事を優先する姿が見られます。
2人の姿から学べること③自分の意見を周りに伝え、仕事しやすい環境を自ら作る
いずれの作品の女性も周りに対する意思表示が明確で、”good communicator”であると言えます。
例えば「逃げ恥」のみくりは、雇用主である夫に「就職としての結婚」を持ちかけ、その提案にメリットを感じた夫も了承し、2人は「雇用主と従業員」という関係の契約結婚を選択することになります。既存の職業選択や夫婦のあり方といった常識にとらわれない新しいライフスタイルの提案をし、それが相手にも受け入れられています。
また、「校閲ガール」の悦子も、現場まで赴いて事実確認をしたり、作家と直接会って矛盾や改善点を指摘したりと、校閲者として期待されている以上の働きをします。校閲部で働く同僚たちは、校閲とは誰からも知られず誰からも評価されない仕事だと半ば諦めている中で、「そんな事誰が決めたんですか」と校閲者のあり方を問いながら悦子なりの校閲との向き合い方を体現し、周りのモチベーションも変わっていきます。
ドラマという架空のキャラクター設定ではありますが、みくりと悦子という異なるタイプのプレイヤーから、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションのヒントが得られたでしょうか?
最後に、女性のキャリアという文脈でも、2人にはキャリアの「ドリフト」を楽しんでいるという興味深い共通点もあるようです。
“キャリアを「ドリフト」する”というのは、キャリア論で著名な神戸大学の金井壽宏教授の本からの引用です。
ドリフトとは、「流される」という意味で、「デザイン」や「プラン」とは反対の意味です。
“キャリアを「ドリフト」する”というと、流されるままに過ごすという受動的な印象を持たれるかもしれませんが、キャリアはデザインしすぎたりプランを立てすぎない方が良いとする考え方もあります。
デザインされた、つまり予め計画的に決められたキャリアを進んでいるうちに、自分の力ではどうしようもない周りの変化や思いがけない出来事が起こり、特にライフイベントの影響を受けやすい女性には、キャリアプランをアジャストする必要が生じることも多々あります。
デザインすることが悪いのではなく、自分のキャリアや可能性を「こうあるべき」という型にはめすぎずに、訪れる不確実性を楽しんだ方が、自分も周りもハッピーに生きられるのではないでしょうか。
私はLean Inとの出会いによって、”自分を超える挑戦をし続けたい”と考えるようになりました。
自分でデザインしたことが、壁となって行動範囲を狭くし、選択肢を少なくしてしまうことがないように、これからもたくさんの女性が一歩踏み出す勇気を持てるサポートができたらいいなと思います。